アイリッシュの笛仲間の間で
徳を積むことが流行っている。
笛は持ち運びに便利なものの
音域と調が限られる。
そして地味で埋もれる。
アイリッシュでは
バイオリンをフィドルと呼び
バイオリン奏者をフィドラーと呼ぶ。
フィドルは全音域カバーできる。
どの調にも対応できる。
重くなく、癖もそれほど強くない。
それでいて、何より華がある。
しかし笛とフィドル、両方やるのは
技術的にも金銭的にも
なかなか難しいものがある。
だから笛仲間の間では
来世でフィドラーになるという目標が
ここそこで取り沙汰されている。
ただし来世でありんこになったら
フィドルは弾けない。だから
人間に生まれ変わるため徳を積む、という。
…徳を積むって、難しい。
たとえば電車で席を譲る、とする。
まず、徳と欲望の違いがわからない。
私たちの場合、席を譲る目的は
来世でフィドラーになりたいという
欲求を満たすため。
すると、席を譲ってもらったひとが
譲ったひとの欲求を満たす、という
功徳を積んだことになるのではないか。
そして、バランス加減がわからない。
混んだ車内で席を立ったら誰かが座って
自動的に誰かの役に立つ。
だけど譲ってそのまま立ってたら
脳貧血を起こし、救護されることもある。
積極的に動いて徳を積むか。
座ったまま動かないで
駅員さんに不要な緊張を与えないという
見えない徳を積むか。
いつも迷う。
来世でありんこにならずにすむ方法が
未だにわからないんだ。